GO FOR THE SUN 2013

2005年晩秋、アナログフィッシュ、フジファブリック、スパルタローカルズの気鋭3バンドが集った伝説の企画『GO FOR THE SUN』が、東名阪を舞台にかつてたった一度だけ開催された。

そして8年後の2013年12月14日、突如として二度目の開催…!当初僕は参加を見送っていたものの、開催前夜のふとしたことから、8年前に引き続いて今回も行けることになってしまった。小躍りした。興奮した。まさか、行けるとは。

なんといっても今回の会場はSHIBUYA-AX。8年前のGO FOR THE SUNをはじめとして、数々の公演を観るため何十回とやってきた思い出の地が、2014年5月末で営業終了決定。それまで行ける機会が無いと思っていた。また来られた。まさか、まさかだ。AXの敷地に入ってから、入場して、フロアに入って、あたりをぐるーっと見回して、そのいずれの瞬間にも、二度と会えないと思っていた友人と思いがけず出くわして抱きしめるような味わいがあった。

それにしても、8年。フロアの年齢層は少し高い。人でいっぱいになったフロアを見渡すたびに、うーん、8年…といちいち感慨に浸る。前回観たとき21歳だった僕も29歳になってしまった。おっさんだ。ライブでとにかく前にガンガン押し寄せるみたいなこともまあしなくなった。見たところ、他にもガツガツしてそうな人はあまりいなそう。


開演まで10分を切ったくらいで、なんかいきなり3人が出てくる。フジファブリックのベース・加藤慎一、アナログフィッシュのベースボーカル・佐々木健太郎、HINTOのベース・安部光広。よくわからないが「三銃士」とのこと。

「いやあ!ついにこの日がやってきましたね!8年ぶり!」光広が陽気にどんどん喋るものの、二言目から既に噛んでいて、終始カミカミ。健太郎さんは気合のあらわれなのか革ジャンを着ていて、後にHINTOのMCで明らかになるのだけど、このとき本人的には「佐々木ケンシロウです!(北斗の拳)」と自己紹介して大爆笑…!となるはずだったらしいのだが、少し照れたのかフェードアウト気味にしゃべったため普通に自己紹介したように聞こえてしまい完全に失敗。加藤さんは特にこれといって自発的にしゃべることはなく、マイクを手に、ただただ静かに揺れていた。不安すぎる三銃士の前説。

「えーっと、8年前にも来た人~??」光広がフロアに訊いたので(僕はそこそこ誇らしい気持ちで)控えめに手を挙げたら、ぜんっぜんいなくてびっくりした。ざっと見渡した感じ、数十人もいなかった。あれっ、意外とみんな若い…??

最後まで光広がクチャクチャだったものの、健太郎さんが「今日は8年ぶんの想いすべてをぶつけます!!!!」と高らかに宣言して大いに湧く。横にいる加藤さんはニコニコしながら無言で頷く。


事故に限りなく近い雰囲気の前説が終了して、最初は、HINTO。4人中3人が元スパルタローカルズになってしまったので、演奏する曲が違うだけで見てくれは大体スパルタローカルズである。

いつものMCハマーのSEで出てきた安部コウセイ、力の漲り方がとてもいい感じ。伊東さんは水玉のシャツにボーダーのズボン。和製プリンス(顔が濃い)安部光広にも緊張の色はない。メンバー全員めちゃめちゃやる気であることが目に見えてわかるのが実に頼もしい。8年前のスパルタローカルズを思い出すと、うわあ成長したな…と、この時点から早くも思った。

ちなみに8年前の演奏順は、アナログフィッシュ→フジファブリック→スパルタローカルズだった。当時からこの3バンドの中ではフジファブリックが実力・知名度ともに頭ひとつ抜けている印象だったので、てっきりフジがトリかと思いきや、まさかのスパルタがトリ…!フロアが騒然としたのをよく覚えている。2番手がフジだとわかった瞬間にワーッと前へ押しかけるやつが発生していて、僕もその一帯にいた。

でも、今にして考えると、当時のスパルタローカルズは「トリしかできなかった」んじゃないかと思う。今ではすっかり丸くなり、同時に狡猾さを獲得した安部コウセイ。はっきり言って8年前はやたら尖ったプライドだけが高い頭のおかしな男だった。これパンクって言っていいのか?気分や調子の良し悪しが露骨にその日のバンドの出来に表れていた。

だから、もしかしたら8年前は気前よくスパルタにトリを任せることで、最大限力を発揮するよう仕向けた部分があったのかもしれない。8年前のトリのスパルタがとてもよかったことを僕はなんとなく覚えている。

が、今のHINTOにはそんな甘やかしや気遣いはご無用。いつもよりだいぶ豪華な美しいレーザーに照らされた演奏は抜群の安定感。合間合間のMCではボロッボロだった前説を丁寧にいじくり回してフロアがどんどん温まる。ワンマンでのホーム感と、よそ行きのライブのちょうど中間くらいのバランスの、求められた役割にきちんと応えた先鋒らしいひたすら楽しいライブだった。セトリはたしかこんな感じ。

ぬきうちはなび
にげる
マジックタイム(新曲)
バブルなラブ
バースデーパーティー
アットホームダンサー
メガネがない

それから、「この8年間で3バンドとも、本当に色々ありました…みんなもこの8年で、色々あったでしょう~?そんな僕らとみんなの8年間の【運命】に、この曲を捧げます!“それってデスティニー”!」最後にドカッと。


2番手は、アナログフィッシュ。観るのは…8年ぶり?前回のGO FOR THE SUN以来かもしれない。唯一の接点といえば、こないだ安部コウセイ初の個展『周辺』を観に行ったとき、フロントマンの下岡さんがごくごく普通に会場の隅に座っていたくらい。

で、大変恐縮なのだけど、アナログフィッシュ、正直言ってあんまり書くことがない。8年ぶりということにもあまり触れず、浮かれず淡々と演奏していて、3バンド中もっとも安定して年輪を重ねてきたであろう落ち着いた風格が漂っていた。少し悪く言えば、HINTOやこの後のフジファブリックと比較して、未だしたたかになれていない、したたかになるという選択肢自体をずいぶん前に放棄したような、「自分たちはずっとこのまま生きていくんだ」という、美しくもどこか危うい中堅バンドの矜持を感じた。

「2014年は15周年YEARなので、たくさんライブやります。今日はぼくらを初めて観る方も多いと思いますけど、是非あそびに来て下さい」よくよく見ると首から下がスティーブ・ジョブズみたいな格好の下岡さんが、あのやさしい声色でぽつぽつと告知していた。


3番手、トリは、フジファブリック。ついに観る日が来てしまいました。セッティングを見ているときからひどくドキドキした。志村正彦が鬼籍に入って丸4年。3人になってすぐの頃は新しい音源を聴くなどしていたのだけど、なんか、やはり、避けていた。金澤ダイスケのキーボードセットが登場して、ああやっぱりフジファブリックだわ…という安堵はありつつ、当たり前のように立っているマイクの本数の少なさに、これから一体何が起こるんだろう。どうなっているんだろう。どうなってしまうんだろう。今まさに開こうとしているパンドラの箱の前でたたずんでいる心境だった。

特にSE等なく、暗転後はすすっと無音で登場。ギター山内総一郎、ではなく『フロントマン山内総一郎』が、やけに陽気に両手を高々と振りながらセンターマイクにつく。ダイちゃんもなんか客席に手を振りながらふらふらとキーボードセットの中に入ってった。えっえっ、なんなんだこの「軽さ」は…チャラいぞ…???でも加藤さんだけは8年前とまるで変わらぬ加藤さんで少し安心。

サポートドラムにあのBOBOさん(54-71、くるり、雅-miyabi-などで叩いてきた経歴を持つ超絶ドラマー。FNS歌謡祭とかも出たことある)が登場して、軽くどよめきが起こる。これはやべえ。

そして一曲目は、なんと“夜明けのBEAT”!

えっえっえっ、マジかマジか、あっあっあっ、いきなり、そんな、まだ、心の準備が。

しかしイントロからして何をどう考えても完全に完璧にあのフジファブリックの演奏なので、戸惑いを上回る勢いで嬉しさが激しくこみ上げてくる。一見、遠目にはイケメン俳優かと見紛う風情を放つ「まさにバンドの前面で歌う人」そのものの姿に変貌していた総くんが当たり前のように爽やかに歌い始めて、また少し戸惑いが追い上げた。

でも間奏での総くんのギターソロ、いきなり頭の後ろにギターを回して背中を客席に向けて軽やかに弾きまくっていて、これがひどく懐かしい光景で、しかも初めて生で聴く夜明けのBEATはあまりのカッコよさで、ああ、マジで、感動するしかないでしょうこれは…ウオオオ…ッ…!

「なんだろう、このバンド、めちゃくちゃ最高だよ…すげえいい」

「あれっ、なんだけど、このバンドはフジファブリック…なの…?」

なんというか、未亡人が愛した夫にとてもよく似た男にうっかり抱かれてしまってそれがめちゃくちゃ気持ちよくてたまらないけれど背徳感もあるような、各種複雑な思いがぐちゃぐちゃに混ざりながら、でも目の前の演奏は本当に気持ちよくて、かっこ良くて、当然ながら人の気持ちなんか一切意に介さずどんどんライブは進んでいって、2曲目は知らない曲だったけど、3曲目に行く直前で加藤さんに静かにスポットライトが当たるから「あれっ、まさか…」と思ったら、そのまさかだ。

“ダンス2000“!!!!!!!!!!!!!

ウワーーーーーー紛れも無いダンス2000でーーーーーーもう本当にーーーーーー何年ぶりに聴いたのだろうーーーーーーーウワーーーーーー最高最高、最高だ……たまらん……でも総くんが(おそらくもう志村に似せようなんて意識もまったくなく)純粋にギターボーカル・山内総一郎として歌っている声が、それはそれはスカッと気持ちよくて、志村のあのヌケ感皆無のくぐもった音程取れてるのかよくわからないしシャウトも上手くないけどめちゃくちゃしっくり来た好きだった声のことを思い出して、最高だし、モヤモヤするし、好きだし、モヤモヤするし、嬉しいし、モヤモヤするし、楽しいし、モヤモヤするし、「キーボード、金澤ダイスケ!」と総くんの声から間奏に突入して、ダイちゃんが弾きまくってて、ああ、こりゃ紛れもないフジファブリック。

うーん、でも、フジファブリックじゃないんだよなあ…フジファブリックなんだけど、フジファブリックって今でも名乗っているけど、やっぱりこれはフジファブリックじゃない。フジファブリックだけどフジファブリックじゃない。そうとしか言いようがない。

「フジファブリックはいいバンド『だった』」と「フジファブリックはいいバンド『だ』」が、矛盾なく成立している事実がそこにはあった。

有難いことに(残念なことに)、今回僕が知っているフジファブリックの曲、この2曲だけだったのです。あとは全部、3人になってから作られた新しい曲たち。知らない曲が来るたび「よかった…昔のやつじゃない…」ってのと「でも昔のやつも聴きたい…どんな感じで総くん歌い上げるの…」って気持ちが同時に湧いてくる。

総くんがMCで「3バンドとも、この8年の間に色々ありました」と言って、あっ言及するのかな、と思いきやそのまま行ったので志村の存在もそんな簡単に「色々」の中に押し込んで処理できてしまうのか…?とか一瞬思ったりもしたんですが、僕はフジファブリックからだいぶ離れていたので、志村がいなくなった後もずっと追っていたなら、おそらくバンドが穴を埋めるべく乗り越えていった過程を一緒に味わうことができていたんだろうし、これって完全に自称古参老害ジジイによる周回遅れの戯言そのものなのだけど、でも本当に、いまの素晴らしい姿を見ることができて、それだけでもとても嬉しくて、よかった。


ただ、以前僕が「サブカル受け皿バンド」という概念の記事を書いたことがありますけど、いまのフジファブリックはもう完全にサブカル受け皿バンドではなくなりました。志村が亡くなったとき、そして再出発の新しい音源が出たとき、情でついてくる女性ファンも、音についてくる男性ファンも、かつて居た人たちは(僕もそうだけど)大部分がいなくなってしまったのではないかと思う。いまのフジファブリックファンの多くは、志村がいなくなったあと「なんかボーカルの人死んじゃったらしいけど、フジファブリックっていいよね~」みたいに入ってきた新興の人たちがとても多い印象を受けた。昔はいなかったような小奇麗なお姉さんが見たことのないフジファブリックTシャツを着て、キャー!総くーん!ダイちゃーん!加藤さーん!って、むしろ新しい曲たちで大いに盛り上がって楽しげに踊っている光景をたくさん見かけた。

だから今回のライブ自体フジファブリックファンが一番多かったようなのだけど、みんなそれほど若くはないものの前回のGO FOR THE SUNには来ていない人が多いっていう実態にも、とても納得がいった。そんなファン層の変化に伴って、総くんやダイちゃんのキャラクターも「軽く」なっていったのだろうな。バンドの生き残り方として、とてもたくましい。よくぞここまで立て直した。すごい。偉い。

尋常じゃない量の尊敬と感動を覚えると共に、それでもまだクソみたいなことを付け足すなら、今のフジファブリックは「志村が死んじゃったのにフジファブリックの名前を使い続けて全然違うバンドになってしまった悪夢のようなパラレルワールドのひとつ」でもあるのかな、とは思う。もしもどこか別のパラレルワールドでは志村が普通に生きていて、その世界のフジファブリックを愛する人たちにこの世界の現在のフジファブリックを見せられたら、たぶん「えっ、なにこれ、悪夢かよ」ってなる。いまのフジファブリックも良いには良いのだけど、そこらへんのよくあるそこそこイケるバンドのひとつでしかなく、もう僕が落ち着ける場所ではないんだよな…。そんなようなことを何度も思いました。


そして、いよいよお待ちかねのアンコール…!

ある意味、GO FOR THE SUNはここからが本番、と言っちゃってもいいのでは。8年前は3バンドのメンバーが勢揃いして“今夜はブギーバッグ”をやった。今回はなにをやるんだろう。セッティングがどんどん進む。ダイちゃんのキーボードセットは横に少しずらしただけでそのままに、HINTOとアナログフィッシュのドラムが2台横並びに置かれて、フジの加藤さんのベースと、HINTOの伊東さんのギターがスタンバイされる。マイクスタンドは全部で4本。あと誰が弾くのかわからないアコギが真ん中に置かれた。

まずは、不安すぎる「三銃士」が再び登場。3人とも今回のGO FOR THE SUN 2013グッズのTシャツに着替えていた。

「いやあ!本当に楽しかったですね!もうずっと(自分たちの出番以外は)観てましたよ!」光広が興奮気味にしゃべって、まあ、言うまでもなく噛みまくって、軽くワイワイやってから、ステージ袖に集まっている他のメンバーに向かい「みんな揃ってるー?準備はいい?それでは!」と、各々バンドメンバーを呼び込む。

まずは「HINTOです!」と光広が他の3人を呼ぶが…やはりここでも噛んでしまった。「ひんてぇれす」だった。健太郎さんの「アナログフィッシュ!」加藤さんの「フジファブリック!」と続く。真ん中のアコギは総くんが弾くようだ。加藤さんのベースはなぜか光広が握っている。その加藤さんは、キーボードの狭いスペースの中でダイちゃんとくっついてなんかコソコソと。

安部コウセイが「もっかいちゃんと自己紹介しようよ~!」と健太郎さんに振って、あらためて前説で失敗した「佐々木ケンシロウです!」のくだりをやる。笑いではなく、拍手と歓声。これだいぶきついやつですね。でも、この先に大団円しか待っていないことをみんなで共有できているこうしたワチャワチャした空気、めちゃくちゃ幸せ感ある。暑くなってすぐに革ジャンを脱ぐ健太郎さん。


「じゃあ、やりますか~」と誰かが促して、ふわっと曲が始まりかけたところで「知ってたらみんな歌ってね!」とコウセイが付け足して、つまりみんな知っているような曲なんですね…ははーん…このイントロは…おっ、知ってる…っていうか……えっ?えーっえっえっ??なんでこのメンバーで…これ!?!?!?

電気グルーヴの“Shangri-La”!!!!!!!!!!

やばい…めっちゃくっちゃ良い…安部コウセイ、下岡晃、佐々木健太郎、山内総一郎4人のボーカリストが小気味よく歌い分けていく。マジ、踊る、しかない。たまらねえ…うっとりする。貴重なステージの光景を刮目していたいのに、ついつい目を閉じて天を仰いでしまう。とろける。同期らしい同期も使ってなさそうなので普通の生演奏だけどすごいクオリティ高い。

最後にはバシッと決まって「いやあ、初めてちゃんとキマったね!」とコウセイがおどけながら「この選曲、サイコーじゃないっすか?」とフロアに問いかける。うん!うんうんうん!文句なし!良い!サイコー!しかもまだ他の曲もやる様子。勝手に「GO FOR THE SUNのアンコールは一曲」と思い込んでいたので、まだまだ終わらないのにびっくり。うれしい。

このタイミングで加藤さんと光広がポジションチェンジ。加藤さんが自分のベースを持ち、光広がダイちゃんのキーボードに収まる。光広とダイちゃんがまたコソコソなんかやっていたが、指摘されたダイちゃんいわく「世間話です」とのこと。(開演中のステージ上で世間話とは…???)

やがて2曲目…これまたアラフォー殺しな選曲…!

“雪の降る町” (UNICORN)!!!!!!!!!!!!

演奏の途中、健太郎さんが暑くて脱いでいた革ジャンを、コウセイがそっと近寄って拾い上げて勝手に着せ始めた。「雪の降る町だから、やっぱ着てたほうがいいかなー、と思ってさ」と演奏直後に。すぐさま「あっ、でももう脱いでいいよ」「いや、大丈夫(脱がない)」「そう?」結局最後までこのまま革ジャンを着ていた健太郎さん。

8年ぶりに開催したGO FOR THE SUN、ものすごく楽しかったし、今度は8年後と言わず、4年後とか2年後くらいにまたやりたいっすねー、みたいな話になったとき、またまた安部コウセイが「ねーねー!みんなで沖縄行きたくない!?でさ、たとえばツアーの最後を沖縄にして2~3日泊まるの!」「ウッワァーーーー!!それめちゃくちゃいいですね!!!!」総くんが身をよじらせながら吐き出す。それからしばらくみんなで(まあ主にコウセイが)沖縄沖縄言っていた。

で、GO FOR THE SUNの最後はやはり、これしかない。

“今夜はブギーバッグ“(小沢健二featuringスチャダラパー)

スチャダラのラップパートを安部コウセイと下岡晃が、オザケンの部分は佐々木健太郎と山内総一郎が、まるで8年前に見たときと同じように、また今でもYoutubeに転がってて再生され続けている伝説の動画と同様に、みんなで気持ちよく歌っていた。


曲も終わりかけて、メンバーひとりひとりを紹介していくくだり、最初に「ドラムス・菱谷昌弘!(HINTO)」と言われて、ヒシタニマサヒロって誰だっけ、って一瞬なってしまった…本名のほう呼ばれたんだ…たしかに合ってるけど…ビッツくん…。

続けてドラムス・斉藤州一郎!(アナログフィッシュ)、ギター・伊東真一!(HINTO)、ベース・加藤慎一!(フジファブリック)と呼ばれたあと、「ベー…あっキーボード・安部光広!」と、普段の楽器ではないのにソロプレイっぽい見せ場を作らなくちゃいけなくなり不慣れにピロピロ弾きまくる光広のパート。それほど盛り上がっていかないフレーズが続く中「あいつはもうちょっとやれるはずだ」と突き放す兄・コウセイ。やがて途中で諦める弟・光広。直後、キーボード・金澤ダイスケ!(フジファブリック)となった時には、当然ながら光広とは比べ物にならないエモーショナルな高速フレーズで魅了してくる(本職)。

ベースボーカル・佐々木健太郎!(アナログフィッシュ)安部コウセイ!(HINTO)下岡晃!(アナログフィッシュ)山内総一郎!(フジファブリック)とメンバーを一周して、それからほんのワンテンポ置いて、立派なフロントマンとなった山内総一郎の口から、


志村正彦!


と。


あっあっ、このタイミングで名前出すんだ…完全に泣いちゃうやつだよそれ…やばいよ…ってなりながら、反射的に両手をグーにして、力いっぱい掲げていた。そう、志村正彦は永遠ですよ。間違いなく。

なんだかよくわからないけれど、今後またもしフジファブリックを観る機会があるとしたら、それはGO FOR THE SUNの時だけが理想だな、それがいいよな、って思った。


AXに来るのもおそらくこれが最後になるんだろうな。数えきれないくらいお世話になりました。特に、過去に何回も書いてますが、フジファブリックのメジャー2ndアルバム『モノノケハカランダ』ツアーのファイナル、アンコールラストで聴いた“陽炎”が、いつまでも残っております。スパルタローカルズの解散ライブでも、2階席の最前ど真ん中にフジファブリックのメンバーが勢揃いしていたことがあった。あれが志村を見た最後でした。

といった具合にAXでの思い出は挙げていくと本当にキリがないのだけど(POLYSICSの10周年ライブでPの文字がトーストされたパン投げを味わったのもここだったなぁ…とか)とにかくその最後かもしれない日に、思い出の集大成にも近い至高のライブを味わえたことは、僕のライブ人生において極めてめでたい出来事であるように思えます。本当にありがとうございました。来られてよかった…!

で、志村がいなくなっても、AXがなくなっても、GO FOR THE SUNはこれからもどこかでたまに開催されていくだろうから、決して忘れることはないのです。
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飛べ飛べ,We Can Fly

HINTOのライブに行ってきました。9月23日。ということは、スパルタローカルズの解散から丸4年か。スパルタ解散を経てHINTOになり、あらためてスパルタローカルズみたいなメンバーになってしまった今となっては、どこか成長を祝う、誕生日を数えるような気持ちになる。


ファンクラブに加入している彼女からチケットをもらって同じタイミングで入場したものの、彼女はパーッとフロアに駆けて行ってしまい、僕は落ち着いて物販を眺めていた。一ヶ月近く先に発売されるシングル『AT HOME DANCER』が、どういうわけか本日超先行販売。で、「数に限りがあるのでお早めにお求め下さい!」って散々脅しをかけてくるので、ついその場で買ってしまった。本当は帰りに買えばいいやと思っていたのに。これから踊るのに。もう荷物預けたのに。新たな手荷物が出来てしまった。

まあ、手で持って観るか…そこまで暴れたりしないしな…と開演直前までは本気で思っていたものの、暗転した瞬間に別のアイデアが降ってきて即実行。峰不二子に言わせれば「フフッ…オンナには秘密の隠し場所があるのよ…♪」って感じだったが、その、僕の場合はただ単に服の内側に入れただけである。おかげさまで両手が空いた。これでいい。いける。


飽きるまで使い続けるのであろうMCハマーの出囃子に乗って登場した安部コウセイ、見るからにできあがっている。しこたまハンドクラップして、気合十分。安部光広、どこかゲイにウケそうな格好になっていて、アッでもスパルタの時はずっとこんなだったな…!と懐かしく思う。気付けば伊東真一の髪がものすごく伸びている。ビッツくんに関しては特に思うところがなかった。いつも通り。


1曲目の“しらないまち”、出たばかりのeastern youthのコンピレーションアルバム『極東最前線3』にて現メンバーで再録されている曲、なのだが、そういうことは後のMC等でも一切触れられず、さらっと。

3曲目、“おまけにアンドロイド”を歌う安部コウセイが、なんか、笑顔だった。「えっ、なんだこれは…何かがヘン」違和感生じる。昔に比べればそりゃ、コウセイが笑顔で歌っていることも珍しくなく、行為としておかしなことは何もない。だけど、なんていうか、笑顔の質がどうも今まで見たことないやつだった。笑顔の源となる部分、出所が、どうも雰囲気違う感じがするのですよ。行きつけの定食屋でいつも食べているマグロ定食を頼んだら、普段は解凍したキハダマグロとかが出てくるのに、急に生の本マグロが出てきて(あれっ、これいつものマグロとは何か全然違うけど、一体どうしたの…!?)って内心思う感じ。笑顔の質、種類が、どことなく違った感じがした。単なる気のせい、にしては、妙に印象深かったな。


「すっかり夏が終わっちゃいましたねー」アルバム『She See Sea』の夏路線を押し出して、HINTOといえば夏だよ!夏といえばHINTOだよ!アピールしてきたにも関わらず、ほとんど夏フェスに呼ばれなかった話。その時、いまさらながらHINTOがTUBEみたいなことになろうとしていたことに気付いた。「んー、おっかしーなー、こんなはずじゃなかったんだけどなー?」とコウセイ。「もっとちゃんと呼べよ!!」珍しく真くんが咆哮する。「これ、今度はもしかしたら『HINTOといえば冬だよ』みたいなことを言っているかもしれません」笑いながらうそぶくコウセイ。

この流れにも関わらず、「季節外れの曲ですが…」と演奏し始めた“アウン”は、相変わらず至高の名曲。たまらない。


「せっかくのワンマンなんだし、今日はここでたくさんしゃべるつもりだよ」ダラッとしたMCがそれなりの時間繰り広げられる。「最近なんかあったー?」雑な投げかけを光広、真くん、ビッツそれぞれに振る。光広はなんかオークションやってるって話。落札するのは音楽の機材1割・釣具9割、らしい。その話を聴いた真くんが「そのさー、ネット通販ってよくわかんないな。アマゾンとか?オレそういうの一度も使ったことないんだけど、どうなのよ??」と、一昔前でさえ通用したか怪しい「オレは他のやつとは違う」みたいな頓珍漢モテアピールめいたことを言い出す。それがメンバーからも客からも笑われ、ややご立腹の真くん。その後ビッツも話を振られて何か言ってたけど、コウセイが「ふーん」で話を終わらせた部分しか記憶に無いので、大した内容ではなかったのでは…。

ともかくビッツの話が終わって、さあ、ここで次の曲かな…!という雰囲気になると「いや、まだいかないよ。普段だったらここでいくやつだったよね。そうはさせねえよ。まだ全然しゃべるつもりだよ」ピシャっと釘刺すコウセイ。

で、今日のライブタイトル『飛べ飛べ,We Can Fly』は、ある曲の歌詞の抜粋だ、というお話をする。AT HOME DANCERにカップリングで入っている“それってディスティニー”がそうなんだよね~、と。「では、それをやります!」真くんの妖しいギターリフが掻き鳴らされ、コウセイはギターを持たず、マイク片手に軽快に歌いまくる。ワンコーラス目のサビのラストに「とーべとーべウィーキャンフラァーイ!!」って叫ぶ感じだった。ううーん、いいっすねえ。このシャウトのテンションが冠されたライブが、ハイテンションにならないわけがないな。


今回のセットリストはとても意欲的。大ラスでしかほとんどやったことがないであろう“ひまわりばたけ“が中盤に。曲が終わって「このまま終わっちゃいそうな雰囲気ですけどね」とコウセイ。あと”“ぬきうちはなび”が、これもそれほど終盤ではないタイミングで来た。こういう変化、しょっちゅう観ているファンじゃなきゃなかなかわからないけど、お約束を打破してやるぜ~!って意欲が伝わる展開。さらにもうひとつ演ってくれた新曲“マジックタイム”、初見からさっそく踊れちゃう楽しいイントロからサビにかけてが来たと思ったら、突然国歌斉唱みたいなパートが入ってきて、ワッ!なんだ!これは!ってなる。こういう落差、とても好きだな~。胸が熱くなる。


「この世で一番美しい音を知っていますか…?それは、伊東真一のアルペジオです」まるで女を口説く石田純一みたいな口ぶりで“マドロミオ”に入るので爆笑してしまうなどしつつ、安部コウセイ、どんどん適切な悪ノリがはずんできて、時間を追うごとにさらに激しく楽しくなっていく。

満を持して演る“アットホームダンサー”からの、“メガネがない“、”スクールホウス“は、すごかった。HINTOのライブで積極的なモッシュみたいなやつが起こっているのを初めて体験した気がする。僕もかなり動いていたにも関わらず、忍ばせていたCDが肉体と一体化してまったく感触がなかったため「えっまさかCD落としたかな!?」ってむしろ不安になり、何度も触って確認するなどしていた(もちろんあった)。またコウセイさんはどういうわけか「倍返しだ!」と「(60点くらいの出来の吹き替えのモノマネ)エディー・マーフィーだっ!」を連呼していた。エディー・マーフィー、コウセイは「ぜんぜんウケてない…」と自嘲していたけど、僕は意味がわからなすぎてめちゃくちゃ笑った。


アンコール。「本当に今日は楽しかったよ!!」と“わりきれない”を演ったあと、すぐさま次の曲に入ろうという素振りを見せる真くんに「ちょっとまてって。ゆっくりやろうや~」とかなんとか制しながら、コウセイがぽつぽつしゃべろうとする。

「HINTOって、ぶっちゃけあんまり売れてないですけど、このタイミングでワンマンを観に来てくれる人たちのことを、裏切りたくないなーと思えるようになったんですよね」なんて、しれっとした顔で言い放つ。直後「いやあ~オレもこういうこと言えるようになったかね~!ハッハ!」と照れ笑い。


…アアッ…コウセイさん、もうそういうことを言っていい雰囲気がライブ中、ずっと滲み出ていましたよ。さっきの笑顔に奥行きのあるニュアンスを感じたのは、そういうことだったんだなーとその時思いました。セルフデフォルメされた変な動きをしながら「ノーフューチャー!」とか叫んでた頃のコウセイさんと比べて、もうずいぶん大人になったんだなって、わかってはいたけど、あらためて完全にわかりました。余裕を獲得した、充実した心に裏打ちされた最近のすばらしい楽曲の数々、死ぬまで追いかけ続ける信頼出来る偉大なミュージシャンの一人ですよ、あなたは……!

みたいなことを深甚に思いつつ、大ラスの“バブルなラブ”を堪能していた。


暗転が解ける瞬間、一緒にライブを楽しんだCDを(人目につく場所では取り出しづらい場所に仕舞っていたので)即座に取り出しつつ、その後ロビーに下りていくと、予想通りCDは公演終了後でも余裕で買うことができた。

BAYCAMP2013

行ってきました。初参加。


川崎に住んで10年以上経つけど、東扇島東公園、初めて行った。とはいえ、縦に長い川崎市。ほぼ最北端にあたる我が家から、最東南端にある東扇島。正直「地元」って感じはまったくしない。むしろ旅行に近い。

フェスといえばいつも早朝出発なのに、午後からゆっくり出発ってのが、新鮮。そしてすぐさま戦慄が走る。チケットを家に忘れた…!入場券と、往復のバスチケット。まだ歩いて帰れる距離だから助かったものの、「ま、まさか…この俺がチケットを忘れる…だと…」ここが戦場なら完全に死んでいるやつだった。


無事、川崎駅にて、今回誘ってくれた彼女と待ち合わせて、サーティーワンでアイスを食べる。これからフェスに行くのに、アイス!!!!これはまさに最高としか言いようがない。

バスに乗って会場。工業地帯のど真ん中へ。思ったより早く着いた。そして思ったより良く晴れている。非日常的な景観がすでに楽しい。ID確認して、リストバンドつけたりして、彼女のテンションがじわじわ上がっていくのが目に見えてよかった。


心地よい人口密度の中をすーっと入場して行くと、物販コーナーのgroup_inouブースに吸い込まれる。タオル、かわいい!Tシャツ、かわいい!どれもかわいい!!Therapyという曲のMVに出てくる気味の悪いイルカさんがたくさん居らした。二人して即座にお買い上げ祭り。あまりにもいい買い物をしたので、ああ、これはもう今日はイノウを越えるアイテムなんて他に存在しないだろうな~という了解がすっかり出来上がったので、その他一切を物色しないままステージまで行ってみる。

おーーーーーっ、でかい!想像していたよりも大きな広場。ああ、フェスだねえ~、ってなった。Czecho No Republicなるバンドがやっていた。地面の多くは芝生に覆われていて、火力発電所か何かの炎が遠くで絶え間なく揺れている。風と爆音がひたすら心地よい。グイグイとビールがすすむ。2ステージの交代制で、ほとんど間断なく次のアクトが始まる。その次に観た、キュウソネコカミ、面白かったな。これはちょっと音源手に入れてみようかしら、ってなった。


eastern youth、ついに観ることができた。本物の吉野さんだ。まあBAYCAMPの客層がどう考えても20代前半メインなので、なんなら隣のステージでThe Mirrazを待っている人たちのほうが多かったものの、吉野さん、めっちゃ放ってたわ…とにかく放っていた。かっこよかったなあ。

で、そのMirrazも観ようかと思っていたのだけど、曲は好きだけど、どうも「お前ら」って客に呼びかけるようなタイプのライブが、苦手だ。その雰囲気を開演前からひしひし感じていたので、DJブースも兼ねた小さいほうのステージに立つ後藤まりこを観ることにした。

後藤まりこ、相変わらず元気そうで、どこか古い友人を見るような感覚になったのだけど、最終的にはステージではない場所で、清純そうな白いワンピースを豪快に翻して、パンツ丸出しで暴れていた。しかもそのとき別行動中だった彼女のちょうど目の前に後藤まりこがやって来ていたらしく、観終わって合流したら、ひどく興奮していた。後藤まりこはTバックみたいなパンツを履いていたとのこと。ウオー!見たかったー!!


適度に飲み食いなどしていたら、すっかり日が暮れる。最初のお目当て、ZAZEN BOYS。そういえば『すとーりーず』が出てから初めて観るな。ステージにはどういうわけかクーラーボックスが置かれていて、どうやら向井が水割りらしきものを作って飲んでいるらしかった。えっ!えっ!向井、ビールじゃないの?!真っ赤なコップを使っている。リハーサルでHonnojiを軽くやって盛り上がった直後、一瞬静まり返った会場にクーラーボックスを閉める音が響き渡ったりした。

ライブは、コールアンドレスポンスみたいなことをたくさんやった。そりゃ、めちゃくちゃ楽しい。だってZAZEN BOYSですもの。「乾杯!」ラストには向井が真っ赤なコップを掲げて去っていった。向井、マジで水割りなのか…うおお…しばらく観ていない間にいったい何があった…(まだ言ってる)


緊急のお知らせで、[Champagne]のギターの人が交通事故に遭ったとかで急遽出演キャンセルになったとのアナウンス。見たところ[Champagne]お目当ての人がたくさんいたので、可哀想だったな。その後出てきたtelephonesの石毛くんが「明日のベリテンライブに出演予定だった[Champagne]の代わりに(同じ事務所である)僕らが出てやるよ!」って発表していて、オッやるねえ~!ってなった。石毛くん、なんか観るたびにどんどんかっこよくなっているな。昔はただのもさいモジャモジャだったのに。いまや立派なフロントマン。


telephones、縁あってかれこれかなりの回数観てきたけど、そこそこ踊れてそこそこ楽しい反面、どうにも心魂を揺らしてはくれない。よく「似ている」だとか同じカテゴリーみたいな扱いでPOLYSICSと一緒くたで「両方好き」みたいなことを言う人がいるけども、こういう人たちを僕はまったく信用していない。いやいや、ポリと電話、全然違うやんけ、って思う。

たとえばtelephonesが『壇蜜』だとしたら、POLYSICSは『大久保佳代子(オアシズ)』なわけですよ。この二人をすごく雑にカテゴライズすれば、どちらも「比較的日本的な顔立ちのエロ面白いお姉さん」かもしれない。でも、壇蜜と大久保さん、まあ、違いますよね。全然違う。僕からすれば「telephonesとPOLYSICS似ているから両方好き」とか言っているやつは「壇蜜と大久保さん似ているから両方好き」って言っているのと同じように聞こえる。

……という話を、ふと電話のアクト中に思いついたのでさっそく彼女に話したところ、へ、へえ~…、って感じだった。そうですよね。そうなりますよね。(あとこの例えではPOLYSICS=大久保さんであることが譲れないのだけど、うん、この話はもういいですよね。わかります)


そして時刻はあっという間に0時を回って、group_inou。今回は彼らを観るためにBAYCAMPに来たといっても過言じゃない。いやー、もう、めっちゃくっちゃかっこよかったよ!!!!!!!!ひたすらに踊りまくりました。しかもTherapyをやってくれたのがよかった。夢中になって楽しんでいたので、そう、あらためて書けるようなことがあまりない。

初めて彼女と一緒にフェス来たわけですが、単独行動のフェスが当たり前だった僕にとっては慣れない環境であるために、ただ一緒に過ごすということがひどく新鮮で面白くて、おかげでそちらに注力したので、いつもみたいにライブで誰が何をしゃべっていたとか、こういう曲をやったとか、ステージではこんなことが起こったとか、その時自分はこんなことを思ったとか、それらを文字に起こそう、っていう意識がほとんど眠っていて、それがとてもよかった。

なんていうか、毎年行っているサマソニではいかに自分が文字起こしする前提の構えを保っているかがすごく浮き彫りになったな。うーむ、こういうのが本来の楽しみ方なのだろう、って気付けた。


BAYCAMPにやって来た目的も無事達成できて、このあとどうしよっか、なんて言いながら、迫ってくる眠気に包まれて、座って眺めていたGRAPEVINEが本当によかった。夜も音楽も永遠に続くような感じがして、柔らかいレジャーシートを敷いて仮眠をとった。眠りについた場所がとても夜景の美しいところだったし、目覚めたときもまだ夜で、遠くでは止むことなく音楽が鳴っていて、夢と現実の境が限りなく融けつつあった。


午前4時半、ほんの少しだけすっきりした体をひきずって、大トリの髭を観た。一緒に朝を迎えるにふさわしい、至福のひととき。至福の楽曲。とっぷりとやってくる多幸感とともに夜が明けていく。どうやら去年この時間はZAZEN BOYSだったそうだけど、おそらくはその反省(?)を踏まえての、髭というバンドのあまりにもしっくりくるチョイス。完璧すぎた。夢のようだった。

「東京でオリンピックが決まったそうですよ。裏でスタッフたちが喜んでいました」

信じられないくらいとびっきりのタイミングで、この文脈でそう告げられると、おお、なんていうか、世界の歯車が噛み合ったような手応えが頭の先から足の先までじんわり漂っていって、これから先、なんにでもなれそうな気がした。正直、東京オリンピックは勘弁してほしいな…と思っていたものの、干したばかりのふかふかの毛布を抱きしめるように、優しく受け容れることができた。


絵に描いたような大団円で、すっかり日も昇って、あまりにも眠くて、くたびれ果てていて、「たのしかったね」「来てよかったね」「誘ってくれてありがとうね」「来てくれてありがとうね」とか、そんなような話を彼女と川崎駅で別れるまで何度も何度も繰り返していた気がする。

あと、朝まで過ごすフェスの注意点として、ほとんど寝ていないにも関わらず、いつも通りの時間に胃腸のじゃじゃ馬が迫ってきてしまうことも学べた。しかも昨晩はビールをしこたま飲んでいたので、じゃじゃ馬がいつもよりだいぶ柔軟で、危うく最高のフェスの最後に最大の汚点を残してしまうところであった。

サマソニまとめ2013

今年も行ってきました。ここ2年くらい「ひょっとして今年が最後かも…」と思いながら楽しんでいたけど、まあ、結局毎年来ていますね。8年連続8回目。2007~2013か。初回ではまだ20代前半の可愛い男の子だった僕も、すっかり要領を弁えたベテランのおっさんになってしまいました。現地で見聴き、感じたことをさらいながら、ざっくり振り返っていきます。

とはいえ、大まかな流れはTwitterに書いたこと(一日目二日目)で大体片付いてしまうのですけども。あらためて観たものを列挙するとこんな感じ。


初日
The Frickers→黒木渚(ほんの少し)→FIDLER(3分の2くらい)
→マキシマムザホルモン→MEW→BABYMETAL→METALLICA

二日目
KANA-BOON→ももいろクローバーZ→CAPITAL CITIES
→でんぱ組.inc→CYNDI LAUPER→EARTH,WIND & FIRE
→TWO DOOR CINEMA CLUB


まず、今年からリストバンドが布製になっていた。サマソニはずっとプラスチックとかビニールとかで、あれ、汗をかくと肌に張り付くし、断面に当たると痛い時もあって、カラフルなのと強度くらいしか誇れる点がなくてイマイチだったけど、なんかこういう部分がサマソニらしいよな~、とも思っていたので、今更のタイミングで突然変わってびっくり。いつもフジロックのリストバンドをうらやましく眺めていたので、ちょっと嬉しかった。ただ一日券のリストバンドが黒地なのに対し、二日券は白地で、長く使うほうが汚れやすい色なのはどうなの、っていうクレームが僕の身近で一件発生していました。(カレーか何かの黄色いシミを初日早々つけてしまって残念なことになっていた)

あと、今年のベストアクト的なものをツイートしなかったな~、って思ったのだけど、最近は合わないな、イマイチだな、と思ったらじゃあメシでも食ってゆっくりしてたほうがいいや~、ってあっさり去ってしまうので、最後までちゃんと観たやつ(上の列挙でいったら括弧がついてないやつ)は、どれもベストアクトみたいなレベルかなーと思う。どれもこれも個性的で、かっこよくて、素晴らしかった。だもんで、いくつか部門を分けて、気になるところを抜粋して書いてみます。


・リアルに生命の危機を感じた部門
 マキシマムザホルモン

これは何度でも言いますけど、過去最強の地獄でした。最高気温37度をマークした日の13時15分~14時前くらい、快晴、日陰なし、無風。マリンスタジアム前方にあった人工芝保護の鉄板上は余裕で45度以上あったと思う。保護シートだけの部分も40度は確実に超えていた。最初は鉄板の上で3曲くらい暴れたけど、あ、このままでは倒れる…って冗談抜きに察知したので、シートのところまで下がる。それでも相当きつい。当然脱落者がバシバシ出ていたので、動きやすいスペースができていた。ある意味ではホルモンのライブらしからぬ快適な空間だった。夢中で踊ったりヘドバンしたりしながら(ああっ、これは俺の人生における大切な、特別な思い出として間違いなく嫌でも刻まれる…)ってしみじみ考えていたのだけど、いま考えるとコレちょっと走馬灯に近いな。終わった後あまりにも具合悪くなっている人が多くて「(医務室がパンクしてるので)自力で歩行できる方は少し離れた他のところへお願いします」って言っていて、ウワアこれぞ修羅場…!ってなった。


・楽しすぎて未知の衝撃を受け、しかも超かわいい部門
 BABYMETAL

ほとんどタイトルで言い切ってしまった感があるけど、ほんとうにほんとうに、ほんとうに凄かったし楽しかったし可愛かった。衝撃度でいったら、今ではゼン『ポリ』を名乗る僕がPOLYSICSを初めて観て一目惚れした時以上と言っていい。信じられないくらい完璧なメタルの演奏があって、扇動しながら舞い踊る3人のめちゃくちゃかわいい女神たちがいて、少し離れたところでは爆速サークルモッシュをはじめとした謎の激しい動きが繰り広げられてて、眼前に広がるあまりの光景に感動しすぎて涙目になりながら、一目散にサークルに突入していた。

『メタルは正義!かわいいは正義!』とのっけから言い放つナレーションつきオープニング映像では、去年のサマソニ、ももクロがメインステージに立つ一方、BABYMETALはサイドショーに甘んじていて、来年は5色の桃が並ぶあのステージ(実際に5色の桃がステージに並んでる画が出る)に立ってやる!!という流れからの爆発的な突入だったので、最近よくあるアイドル的な物語が賑やかしの戯言だけでは到底片付けられない、超人的圧倒的説得力をもって完膚なきまでに胸に染みこんできて、まあ、完全に虜になった。仮にももクロがアイドルにプロレスを持ち込んだのだとしたら、颯爽と同じリングに上がってきたヒール(悪役)がBABYMETALと言えるのかもしれない。強いヒーローと真正面からガチンコで殴り合えるヒールとして持つべき絶対的な強さが、間違いなくある。曲と振り付けカンペキに覚えてまた必ず参戦したい。する!

で、またその正義の大ヒーローと化してしまった超人気の天下のももクロ様も、翌日のマウンテンステージ(ベビメタがやったレインボーステージの倍の、2万以上のキャパ)を満員に埋め尽くして登場したとき「日本でただひとつの、マウンテンステージに立つことを許されたアイドル」という攻撃的フレーズをかなこがぶち込んできて、うおお、こいつらやり合ってる!やり合ってるよ!って静かにヒートアップするなどしていました。(承太郎とDIO、悟空とベジータ、あるいは幽助と戸愚呂弟が全力でどつきあっているときのような、あの手に汗握るワクワクをとても感じたんだ。)


・確実に天国に片足以上突っ込んでいた部門
 METALLICA、EARTH,WIND & FIRE

メタリカはね…2曲目にね…やったんですよ……Master Of Puppetsを。普段ライブでイントロが来て、もしそれが好きな曲だったりした場合、当然叫びますよね。僕はとても良く叫んでしまうし、無意識に出る奇声を抑えようという気がさらさらないのですが、Master Of Puppetが来たときはまさに体の奥底から、芯から、腹筋をしぼり上げて叫んでしまっているのが自分でとてもよくわかった。ホルモンとベビメタで体中ボロボロだったけど、もうすべてがぶっ飛んだ。あとはタイタニック号の先端みたいな飛んでいる感覚になれる高所のすごいイイ席を押さえておいてもらったこともあって、壮大な視界一面、夢のようなひとときがずーっと続いていた。ずーっと、ずーっと。…まあ、メタリカは予定の2時間は確実に超えてくるだろうな~、とは思っていたけど、予想通りの長大な本編の後、さらにアンコール数曲(Batteryとか!)が終わって、…まだなーんかやりたそうにフロントマンのジェイムズがステージの中央に立っている。そしたら、手拍子、起こりますよね。もっとやってくれよー!って。そしたら(1曲やれるー?いや2曲やれっかなー?)みたいなジェスチャーを交えて相談してて、オイオイどうなるんだよ~~~、と思ったら手でゼロを作りながらジェイムズが時計を差して「イヤァ~しょうがないんだよ~もう時間切れでさ~」ってやってて、でもなぜかギターを身につけようともして「ウオオオオ!」ってなって、ギターを下ろして「ウワアアア…」ってなって……っていう茶番をジェイムズがふざけて5回も6回も繰り返して、「やるかやらねえのかハッキリしろや!!!!!!」って笑いながら叫ぶしかなくなってて、まあ、結局やるんですけどね。欲張りで楽しいクソジジイどもめ。最高だった。

アース・ウインド&ファイアーのライブ、まさか、観れるなんて…って感じでしょ。半信半疑みたいな。感覚的にはもう、お釈迦様のライブに来てるけどこれって本当かな?ウッソーマジぃ?僕は入口からそんな雰囲気だったのですよ。音楽にまったく疎くても、ひとつやふたつ、曲、絶対聴いたことあって、何かしら絶対知ってるし、まるで子供の頃に習った歴史上の人物のような。そう、現実感がまったくない。でも、なんかやるっていうから、行ってみたらさ………アアッ……!神様ッ!まさか本当にいらしたの……ステージの配置、たたずまいが、もうなんというか、この世のものではない。登場というより完全に降臨だった。神話の中からいろんな神様たちが楽器持って飛び出してきて、たまらないグルーヴを聴かせてくれる。気持ちよく踊っていたけど、むしろ天を見上げたり、両手を広げて天に掲げるとかのほうが、聴いている時の動きとしてはしっくりくるんじゃないかなって思いもしていた。で、気付く。「これ、天国だわ」天国ってこういう感じだわ、行ったことないけど、たぶん、絶対そうだ。たとえばフレイミング・リップスとはまた違った種類のあの超絶多幸感空間っぷりをあらわすのに、『天国』以上の適切な言葉がみつからない。あと、ここまでまったく見かけなかった昔からアース・ウインド&ファイアーを聴いていたのであろうおじさんたちが急に湧いてきて目を閉じて浸っている光景とかも散見できて、すごい、よかったなあ。よかったー。よかったよ。神様、いたわ。


無職として初参加するサマソニ、最近鈍ってるし体力的にどうかな~?とかいろいろあったけど、終わってみればめちゃくちゃ盛りだくさんで、なんなら8回目にして最もタフな二日間だった気もする。Twitterの友達ともちょいちょい会えて、そのうち一人とは(相手の連れの都合上)お互いの関わりを偽って振舞うとかいう妙にスリリングなこともあって、楽しかった。長年行列を見ているだけだった有名なマグロ丼も朝一番に突撃することでついに食べられたし、全体的に言うことないんじゃないかな。ビール出してるメーカーが今年はバドワイザーだったおかげでビールばっかり飲んでいた。強いて言えば、うまそうなラーメンの屋台がなかったことくらい。

あー、来年も行きたいな~。この先僕自身がどうなるかまったくわからないから一切読めないけど、行けたらいいなぁ。カップル参戦していた友人を見ていて、来年とか、うちもそういうのできないかな~ってすごい思ったな。