GO FOR THE SUN 2013
- カテゴリ:ライブ
2005年晩秋、アナログフィッシュ、フジファブリック、スパルタローカルズの気鋭3バンドが集った伝説の企画『GO FOR THE SUN』が、東名阪を舞台にかつてたった一度だけ開催された。
そして8年後の2013年12月14日、突如として二度目の開催…!当初僕は参加を見送っていたものの、開催前夜のふとしたことから、8年前に引き続いて今回も行けることになってしまった。小躍りした。興奮した。まさか、行けるとは。
なんといっても今回の会場はSHIBUYA-AX。8年前のGO FOR THE SUNをはじめとして、数々の公演を観るため何十回とやってきた思い出の地が、2014年5月末で営業終了決定。それまで行ける機会が無いと思っていた。また来られた。まさか、まさかだ。AXの敷地に入ってから、入場して、フロアに入って、あたりをぐるーっと見回して、そのいずれの瞬間にも、二度と会えないと思っていた友人と思いがけず出くわして抱きしめるような味わいがあった。
それにしても、8年。フロアの年齢層は少し高い。人でいっぱいになったフロアを見渡すたびに、うーん、8年…といちいち感慨に浸る。前回観たとき21歳だった僕も29歳になってしまった。おっさんだ。ライブでとにかく前にガンガン押し寄せるみたいなこともまあしなくなった。見たところ、他にもガツガツしてそうな人はあまりいなそう。
開演まで10分を切ったくらいで、なんかいきなり3人が出てくる。フジファブリックのベース・加藤慎一、アナログフィッシュのベースボーカル・佐々木健太郎、HINTOのベース・安部光広。よくわからないが「三銃士」とのこと。
「いやあ!ついにこの日がやってきましたね!8年ぶり!」光広が陽気にどんどん喋るものの、二言目から既に噛んでいて、終始カミカミ。健太郎さんは気合のあらわれなのか革ジャンを着ていて、後にHINTOのMCで明らかになるのだけど、このとき本人的には「佐々木ケンシロウです!(北斗の拳)」と自己紹介して大爆笑…!となるはずだったらしいのだが、少し照れたのかフェードアウト気味にしゃべったため普通に自己紹介したように聞こえてしまい完全に失敗。加藤さんは特にこれといって自発的にしゃべることはなく、マイクを手に、ただただ静かに揺れていた。不安すぎる三銃士の前説。
「えーっと、8年前にも来た人~??」光広がフロアに訊いたので(僕はそこそこ誇らしい気持ちで)控えめに手を挙げたら、ぜんっぜんいなくてびっくりした。ざっと見渡した感じ、数十人もいなかった。あれっ、意外とみんな若い…??
最後まで光広がクチャクチャだったものの、健太郎さんが「今日は8年ぶんの想いすべてをぶつけます!!!!」と高らかに宣言して大いに湧く。横にいる加藤さんはニコニコしながら無言で頷く。
事故に限りなく近い雰囲気の前説が終了して、最初は、HINTO。4人中3人が元スパルタローカルズになってしまったので、演奏する曲が違うだけで見てくれは大体スパルタローカルズである。
いつものMCハマーのSEで出てきた安部コウセイ、力の漲り方がとてもいい感じ。伊東さんは水玉のシャツにボーダーのズボン。和製プリンス(顔が濃い)安部光広にも緊張の色はない。メンバー全員めちゃめちゃやる気であることが目に見えてわかるのが実に頼もしい。8年前のスパルタローカルズを思い出すと、うわあ成長したな…と、この時点から早くも思った。
ちなみに8年前の演奏順は、アナログフィッシュ→フジファブリック→スパルタローカルズだった。当時からこの3バンドの中ではフジファブリックが実力・知名度ともに頭ひとつ抜けている印象だったので、てっきりフジがトリかと思いきや、まさかのスパルタがトリ…!フロアが騒然としたのをよく覚えている。2番手がフジだとわかった瞬間にワーッと前へ押しかけるやつが発生していて、僕もその一帯にいた。
でも、今にして考えると、当時のスパルタローカルズは「トリしかできなかった」んじゃないかと思う。今ではすっかり丸くなり、同時に狡猾さを獲得した安部コウセイ。はっきり言って8年前はやたら尖ったプライドだけが高い頭のおかしな男だった。これパンクって言っていいのか?気分や調子の良し悪しが露骨にその日のバンドの出来に表れていた。
だから、もしかしたら8年前は気前よくスパルタにトリを任せることで、最大限力を発揮するよう仕向けた部分があったのかもしれない。8年前のトリのスパルタがとてもよかったことを僕はなんとなく覚えている。
が、今のHINTOにはそんな甘やかしや気遣いはご無用。いつもよりだいぶ豪華な美しいレーザーに照らされた演奏は抜群の安定感。合間合間のMCではボロッボロだった前説を丁寧にいじくり回してフロアがどんどん温まる。ワンマンでのホーム感と、よそ行きのライブのちょうど中間くらいのバランスの、求められた役割にきちんと応えた先鋒らしいひたすら楽しいライブだった。セトリはたしかこんな感じ。
ぬきうちはなび
にげる
マジックタイム(新曲)
バブルなラブ
バースデーパーティー
アットホームダンサー
メガネがない
それから、「この8年間で3バンドとも、本当に色々ありました…みんなもこの8年で、色々あったでしょう~?そんな僕らとみんなの8年間の【運命】に、この曲を捧げます!“それってデスティニー”!」最後にドカッと。
2番手は、アナログフィッシュ。観るのは…8年ぶり?前回のGO FOR THE SUN以来かもしれない。唯一の接点といえば、こないだ安部コウセイ初の個展『周辺』を観に行ったとき、フロントマンの下岡さんがごくごく普通に会場の隅に座っていたくらい。
で、大変恐縮なのだけど、アナログフィッシュ、正直言ってあんまり書くことがない。8年ぶりということにもあまり触れず、浮かれず淡々と演奏していて、3バンド中もっとも安定して年輪を重ねてきたであろう落ち着いた風格が漂っていた。少し悪く言えば、HINTOやこの後のフジファブリックと比較して、未だしたたかになれていない、したたかになるという選択肢自体をずいぶん前に放棄したような、「自分たちはずっとこのまま生きていくんだ」という、美しくもどこか危うい中堅バンドの矜持を感じた。
「2014年は15周年YEARなので、たくさんライブやります。今日はぼくらを初めて観る方も多いと思いますけど、是非あそびに来て下さい」よくよく見ると首から下がスティーブ・ジョブズみたいな格好の下岡さんが、あのやさしい声色でぽつぽつと告知していた。
3番手、トリは、フジファブリック。ついに観る日が来てしまいました。セッティングを見ているときからひどくドキドキした。志村正彦が鬼籍に入って丸4年。3人になってすぐの頃は新しい音源を聴くなどしていたのだけど、なんか、やはり、避けていた。金澤ダイスケのキーボードセットが登場して、ああやっぱりフジファブリックだわ…という安堵はありつつ、当たり前のように立っているマイクの本数の少なさに、これから一体何が起こるんだろう。どうなっているんだろう。どうなってしまうんだろう。今まさに開こうとしているパンドラの箱の前でたたずんでいる心境だった。
特にSE等なく、暗転後はすすっと無音で登場。ギター山内総一郎、ではなく『フロントマン山内総一郎』が、やけに陽気に両手を高々と振りながらセンターマイクにつく。ダイちゃんもなんか客席に手を振りながらふらふらとキーボードセットの中に入ってった。えっえっ、なんなんだこの「軽さ」は…チャラいぞ…???でも加藤さんだけは8年前とまるで変わらぬ加藤さんで少し安心。
サポートドラムにあのBOBOさん(54-71、くるり、雅-miyabi-などで叩いてきた経歴を持つ超絶ドラマー。FNS歌謡祭とかも出たことある)が登場して、軽くどよめきが起こる。これはやべえ。
そして一曲目は、なんと“夜明けのBEAT”!
えっえっえっ、マジかマジか、あっあっあっ、いきなり、そんな、まだ、心の準備が。
しかしイントロからして何をどう考えても完全に完璧にあのフジファブリックの演奏なので、戸惑いを上回る勢いで嬉しさが激しくこみ上げてくる。一見、遠目にはイケメン俳優かと見紛う風情を放つ「まさにバンドの前面で歌う人」そのものの姿に変貌していた総くんが当たり前のように爽やかに歌い始めて、また少し戸惑いが追い上げた。
でも間奏での総くんのギターソロ、いきなり頭の後ろにギターを回して背中を客席に向けて軽やかに弾きまくっていて、これがひどく懐かしい光景で、しかも初めて生で聴く夜明けのBEATはあまりのカッコよさで、ああ、マジで、感動するしかないでしょうこれは…ウオオオ…ッ…!
「なんだろう、このバンド、めちゃくちゃ最高だよ…すげえいい」
「あれっ、なんだけど、このバンドはフジファブリック…なの…?」
なんというか、未亡人が愛した夫にとてもよく似た男にうっかり抱かれてしまってそれがめちゃくちゃ気持ちよくてたまらないけれど背徳感もあるような、各種複雑な思いがぐちゃぐちゃに混ざりながら、でも目の前の演奏は本当に気持ちよくて、かっこ良くて、当然ながら人の気持ちなんか一切意に介さずどんどんライブは進んでいって、2曲目は知らない曲だったけど、3曲目に行く直前で加藤さんに静かにスポットライトが当たるから「あれっ、まさか…」と思ったら、そのまさかだ。
“ダンス2000“!!!!!!!!!!!!!
ウワーーーーーー紛れも無いダンス2000でーーーーーーもう本当にーーーーーー何年ぶりに聴いたのだろうーーーーーーーウワーーーーーー最高最高、最高だ……たまらん……でも総くんが(おそらくもう志村に似せようなんて意識もまったくなく)純粋にギターボーカル・山内総一郎として歌っている声が、それはそれはスカッと気持ちよくて、志村のあのヌケ感皆無のくぐもった音程取れてるのかよくわからないしシャウトも上手くないけどめちゃくちゃしっくり来た好きだった声のことを思い出して、最高だし、モヤモヤするし、好きだし、モヤモヤするし、嬉しいし、モヤモヤするし、楽しいし、モヤモヤするし、「キーボード、金澤ダイスケ!」と総くんの声から間奏に突入して、ダイちゃんが弾きまくってて、ああ、こりゃ紛れもないフジファブリック。
うーん、でも、フジファブリックじゃないんだよなあ…フジファブリックなんだけど、フジファブリックって今でも名乗っているけど、やっぱりこれはフジファブリックじゃない。フジファブリックだけどフジファブリックじゃない。そうとしか言いようがない。
「フジファブリックはいいバンド『だった』」と「フジファブリックはいいバンド『だ』」が、矛盾なく成立している事実がそこにはあった。
有難いことに(残念なことに)、今回僕が知っているフジファブリックの曲、この2曲だけだったのです。あとは全部、3人になってから作られた新しい曲たち。知らない曲が来るたび「よかった…昔のやつじゃない…」ってのと「でも昔のやつも聴きたい…どんな感じで総くん歌い上げるの…」って気持ちが同時に湧いてくる。
総くんがMCで「3バンドとも、この8年の間に色々ありました」と言って、あっ言及するのかな、と思いきやそのまま行ったので志村の存在もそんな簡単に「色々」の中に押し込んで処理できてしまうのか…?とか一瞬思ったりもしたんですが、僕はフジファブリックからだいぶ離れていたので、志村がいなくなった後もずっと追っていたなら、おそらくバンドが穴を埋めるべく乗り越えていった過程を一緒に味わうことができていたんだろうし、これって完全に自称古参老害ジジイによる周回遅れの戯言そのものなのだけど、でも本当に、いまの素晴らしい姿を見ることができて、それだけでもとても嬉しくて、よかった。
ただ、以前僕が「サブカル受け皿バンド」という概念の記事を書いたことがありますけど、いまのフジファブリックはもう完全にサブカル受け皿バンドではなくなりました。志村が亡くなったとき、そして再出発の新しい音源が出たとき、情でついてくる女性ファンも、音についてくる男性ファンも、かつて居た人たちは(僕もそうだけど)大部分がいなくなってしまったのではないかと思う。いまのフジファブリックファンの多くは、志村がいなくなったあと「なんかボーカルの人死んじゃったらしいけど、フジファブリックっていいよね~」みたいに入ってきた新興の人たちがとても多い印象を受けた。昔はいなかったような小奇麗なお姉さんが見たことのないフジファブリックTシャツを着て、キャー!総くーん!ダイちゃーん!加藤さーん!って、むしろ新しい曲たちで大いに盛り上がって楽しげに踊っている光景をたくさん見かけた。
だから今回のライブ自体フジファブリックファンが一番多かったようなのだけど、みんなそれほど若くはないものの前回のGO FOR THE SUNには来ていない人が多いっていう実態にも、とても納得がいった。そんなファン層の変化に伴って、総くんやダイちゃんのキャラクターも「軽く」なっていったのだろうな。バンドの生き残り方として、とてもたくましい。よくぞここまで立て直した。すごい。偉い。
尋常じゃない量の尊敬と感動を覚えると共に、それでもまだクソみたいなことを付け足すなら、今のフジファブリックは「志村が死んじゃったのにフジファブリックの名前を使い続けて全然違うバンドになってしまった悪夢のようなパラレルワールドのひとつ」でもあるのかな、とは思う。もしもどこか別のパラレルワールドでは志村が普通に生きていて、その世界のフジファブリックを愛する人たちにこの世界の現在のフジファブリックを見せられたら、たぶん「えっ、なにこれ、悪夢かよ」ってなる。いまのフジファブリックも良いには良いのだけど、そこらへんのよくあるそこそこイケるバンドのひとつでしかなく、もう僕が落ち着ける場所ではないんだよな…。そんなようなことを何度も思いました。
そして、いよいよお待ちかねのアンコール…!
ある意味、GO FOR THE SUNはここからが本番、と言っちゃってもいいのでは。8年前は3バンドのメンバーが勢揃いして“今夜はブギーバッグ”をやった。今回はなにをやるんだろう。セッティングがどんどん進む。ダイちゃんのキーボードセットは横に少しずらしただけでそのままに、HINTOとアナログフィッシュのドラムが2台横並びに置かれて、フジの加藤さんのベースと、HINTOの伊東さんのギターがスタンバイされる。マイクスタンドは全部で4本。あと誰が弾くのかわからないアコギが真ん中に置かれた。
まずは、不安すぎる「三銃士」が再び登場。3人とも今回のGO FOR THE SUN 2013グッズのTシャツに着替えていた。
「いやあ!本当に楽しかったですね!もうずっと(自分たちの出番以外は)観てましたよ!」光広が興奮気味にしゃべって、まあ、言うまでもなく噛みまくって、軽くワイワイやってから、ステージ袖に集まっている他のメンバーに向かい「みんな揃ってるー?準備はいい?それでは!」と、各々バンドメンバーを呼び込む。
まずは「HINTOです!」と光広が他の3人を呼ぶが…やはりここでも噛んでしまった。「ひんてぇれす」だった。健太郎さんの「アナログフィッシュ!」加藤さんの「フジファブリック!」と続く。真ん中のアコギは総くんが弾くようだ。加藤さんのベースはなぜか光広が握っている。その加藤さんは、キーボードの狭いスペースの中でダイちゃんとくっついてなんかコソコソと。
安部コウセイが「もっかいちゃんと自己紹介しようよ~!」と健太郎さんに振って、あらためて前説で失敗した「佐々木ケンシロウです!」のくだりをやる。笑いではなく、拍手と歓声。これだいぶきついやつですね。でも、この先に大団円しか待っていないことをみんなで共有できているこうしたワチャワチャした空気、めちゃくちゃ幸せ感ある。暑くなってすぐに革ジャンを脱ぐ健太郎さん。
「じゃあ、やりますか~」と誰かが促して、ふわっと曲が始まりかけたところで「知ってたらみんな歌ってね!」とコウセイが付け足して、つまりみんな知っているような曲なんですね…ははーん…このイントロは…おっ、知ってる…っていうか……えっ?えーっえっえっ??なんでこのメンバーで…これ!?!?!?
電気グルーヴの“Shangri-La”!!!!!!!!!!
やばい…めっちゃくっちゃ良い…安部コウセイ、下岡晃、佐々木健太郎、山内総一郎4人のボーカリストが小気味よく歌い分けていく。マジ、踊る、しかない。たまらねえ…うっとりする。貴重なステージの光景を刮目していたいのに、ついつい目を閉じて天を仰いでしまう。とろける。同期らしい同期も使ってなさそうなので普通の生演奏だけどすごいクオリティ高い。
最後にはバシッと決まって「いやあ、初めてちゃんとキマったね!」とコウセイがおどけながら「この選曲、サイコーじゃないっすか?」とフロアに問いかける。うん!うんうんうん!文句なし!良い!サイコー!しかもまだ他の曲もやる様子。勝手に「GO FOR THE SUNのアンコールは一曲」と思い込んでいたので、まだまだ終わらないのにびっくり。うれしい。
このタイミングで加藤さんと光広がポジションチェンジ。加藤さんが自分のベースを持ち、光広がダイちゃんのキーボードに収まる。光広とダイちゃんがまたコソコソなんかやっていたが、指摘されたダイちゃんいわく「世間話です」とのこと。(開演中のステージ上で世間話とは…???)
やがて2曲目…これまたアラフォー殺しな選曲…!
“雪の降る町” (UNICORN)!!!!!!!!!!!!
演奏の途中、健太郎さんが暑くて脱いでいた革ジャンを、コウセイがそっと近寄って拾い上げて勝手に着せ始めた。「雪の降る町だから、やっぱ着てたほうがいいかなー、と思ってさ」と演奏直後に。すぐさま「あっ、でももう脱いでいいよ」「いや、大丈夫(脱がない)」「そう?」結局最後までこのまま革ジャンを着ていた健太郎さん。
8年ぶりに開催したGO FOR THE SUN、ものすごく楽しかったし、今度は8年後と言わず、4年後とか2年後くらいにまたやりたいっすねー、みたいな話になったとき、またまた安部コウセイが「ねーねー!みんなで沖縄行きたくない!?でさ、たとえばツアーの最後を沖縄にして2~3日泊まるの!」「ウッワァーーーー!!それめちゃくちゃいいですね!!!!」総くんが身をよじらせながら吐き出す。それからしばらくみんなで(まあ主にコウセイが)沖縄沖縄言っていた。
で、GO FOR THE SUNの最後はやはり、これしかない。
“今夜はブギーバッグ“(小沢健二featuringスチャダラパー)
スチャダラのラップパートを安部コウセイと下岡晃が、オザケンの部分は佐々木健太郎と山内総一郎が、まるで8年前に見たときと同じように、また今でもYoutubeに転がってて再生され続けている伝説の動画と同様に、みんなで気持ちよく歌っていた。
曲も終わりかけて、メンバーひとりひとりを紹介していくくだり、最初に「ドラムス・菱谷昌弘!(HINTO)」と言われて、ヒシタニマサヒロって誰だっけ、って一瞬なってしまった…本名のほう呼ばれたんだ…たしかに合ってるけど…ビッツくん…。
続けてドラムス・斉藤州一郎!(アナログフィッシュ)、ギター・伊東真一!(HINTO)、ベース・加藤慎一!(フジファブリック)と呼ばれたあと、「ベー…あっキーボード・安部光広!」と、普段の楽器ではないのにソロプレイっぽい見せ場を作らなくちゃいけなくなり不慣れにピロピロ弾きまくる光広のパート。それほど盛り上がっていかないフレーズが続く中「あいつはもうちょっとやれるはずだ」と突き放す兄・コウセイ。やがて途中で諦める弟・光広。直後、キーボード・金澤ダイスケ!(フジファブリック)となった時には、当然ながら光広とは比べ物にならないエモーショナルな高速フレーズで魅了してくる(本職)。
ベースボーカル・佐々木健太郎!(アナログフィッシュ)安部コウセイ!(HINTO)下岡晃!(アナログフィッシュ)山内総一郎!(フジファブリック)とメンバーを一周して、それからほんのワンテンポ置いて、立派なフロントマンとなった山内総一郎の口から、
志村正彦!
と。
あっあっ、このタイミングで名前出すんだ…完全に泣いちゃうやつだよそれ…やばいよ…ってなりながら、反射的に両手をグーにして、力いっぱい掲げていた。そう、志村正彦は永遠ですよ。間違いなく。
なんだかよくわからないけれど、今後またもしフジファブリックを観る機会があるとしたら、それはGO FOR THE SUNの時だけが理想だな、それがいいよな、って思った。
AXに来るのもおそらくこれが最後になるんだろうな。数えきれないくらいお世話になりました。特に、過去に何回も書いてますが、フジファブリックのメジャー2ndアルバム『モノノケハカランダ』ツアーのファイナル、アンコールラストで聴いた“陽炎”が、いつまでも残っております。スパルタローカルズの解散ライブでも、2階席の最前ど真ん中にフジファブリックのメンバーが勢揃いしていたことがあった。あれが志村を見た最後でした。
といった具合にAXでの思い出は挙げていくと本当にキリがないのだけど(POLYSICSの10周年ライブでPの文字がトーストされたパン投げを味わったのもここだったなぁ…とか)とにかくその最後かもしれない日に、思い出の集大成にも近い至高のライブを味わえたことは、僕のライブ人生において極めてめでたい出来事であるように思えます。本当にありがとうございました。来られてよかった…!
で、志村がいなくなっても、AXがなくなっても、GO FOR THE SUNはこれからもどこかでたまに開催されていくだろうから、決して忘れることはないのです。
そして8年後の2013年12月14日、突如として二度目の開催…!当初僕は参加を見送っていたものの、開催前夜のふとしたことから、8年前に引き続いて今回も行けることになってしまった。小躍りした。興奮した。まさか、行けるとは。
なんといっても今回の会場はSHIBUYA-AX。8年前のGO FOR THE SUNをはじめとして、数々の公演を観るため何十回とやってきた思い出の地が、2014年5月末で営業終了決定。それまで行ける機会が無いと思っていた。また来られた。まさか、まさかだ。AXの敷地に入ってから、入場して、フロアに入って、あたりをぐるーっと見回して、そのいずれの瞬間にも、二度と会えないと思っていた友人と思いがけず出くわして抱きしめるような味わいがあった。
それにしても、8年。フロアの年齢層は少し高い。人でいっぱいになったフロアを見渡すたびに、うーん、8年…といちいち感慨に浸る。前回観たとき21歳だった僕も29歳になってしまった。おっさんだ。ライブでとにかく前にガンガン押し寄せるみたいなこともまあしなくなった。見たところ、他にもガツガツしてそうな人はあまりいなそう。
開演まで10分を切ったくらいで、なんかいきなり3人が出てくる。フジファブリックのベース・加藤慎一、アナログフィッシュのベースボーカル・佐々木健太郎、HINTOのベース・安部光広。よくわからないが「三銃士」とのこと。
「いやあ!ついにこの日がやってきましたね!8年ぶり!」光広が陽気にどんどん喋るものの、二言目から既に噛んでいて、終始カミカミ。健太郎さんは気合のあらわれなのか革ジャンを着ていて、後にHINTOのMCで明らかになるのだけど、このとき本人的には「佐々木ケンシロウです!(北斗の拳)」と自己紹介して大爆笑…!となるはずだったらしいのだが、少し照れたのかフェードアウト気味にしゃべったため普通に自己紹介したように聞こえてしまい完全に失敗。加藤さんは特にこれといって自発的にしゃべることはなく、マイクを手に、ただただ静かに揺れていた。不安すぎる三銃士の前説。
「えーっと、8年前にも来た人~??」光広がフロアに訊いたので(僕はそこそこ誇らしい気持ちで)控えめに手を挙げたら、ぜんっぜんいなくてびっくりした。ざっと見渡した感じ、数十人もいなかった。あれっ、意外とみんな若い…??
最後まで光広がクチャクチャだったものの、健太郎さんが「今日は8年ぶんの想いすべてをぶつけます!!!!」と高らかに宣言して大いに湧く。横にいる加藤さんはニコニコしながら無言で頷く。
事故に限りなく近い雰囲気の前説が終了して、最初は、HINTO。4人中3人が元スパルタローカルズになってしまったので、演奏する曲が違うだけで見てくれは大体スパルタローカルズである。
いつものMCハマーのSEで出てきた安部コウセイ、力の漲り方がとてもいい感じ。伊東さんは水玉のシャツにボーダーのズボン。和製プリンス(顔が濃い)安部光広にも緊張の色はない。メンバー全員めちゃめちゃやる気であることが目に見えてわかるのが実に頼もしい。8年前のスパルタローカルズを思い出すと、うわあ成長したな…と、この時点から早くも思った。
ちなみに8年前の演奏順は、アナログフィッシュ→フジファブリック→スパルタローカルズだった。当時からこの3バンドの中ではフジファブリックが実力・知名度ともに頭ひとつ抜けている印象だったので、てっきりフジがトリかと思いきや、まさかのスパルタがトリ…!フロアが騒然としたのをよく覚えている。2番手がフジだとわかった瞬間にワーッと前へ押しかけるやつが発生していて、僕もその一帯にいた。
でも、今にして考えると、当時のスパルタローカルズは「トリしかできなかった」んじゃないかと思う。今ではすっかり丸くなり、同時に狡猾さを獲得した安部コウセイ。はっきり言って8年前はやたら尖ったプライドだけが高い頭のおかしな男だった。これパンクって言っていいのか?気分や調子の良し悪しが露骨にその日のバンドの出来に表れていた。
だから、もしかしたら8年前は気前よくスパルタにトリを任せることで、最大限力を発揮するよう仕向けた部分があったのかもしれない。8年前のトリのスパルタがとてもよかったことを僕はなんとなく覚えている。
が、今のHINTOにはそんな甘やかしや気遣いはご無用。いつもよりだいぶ豪華な美しいレーザーに照らされた演奏は抜群の安定感。合間合間のMCではボロッボロだった前説を丁寧にいじくり回してフロアがどんどん温まる。ワンマンでのホーム感と、よそ行きのライブのちょうど中間くらいのバランスの、求められた役割にきちんと応えた先鋒らしいひたすら楽しいライブだった。セトリはたしかこんな感じ。
ぬきうちはなび
にげる
マジックタイム(新曲)
バブルなラブ
バースデーパーティー
アットホームダンサー
メガネがない
それから、「この8年間で3バンドとも、本当に色々ありました…みんなもこの8年で、色々あったでしょう~?そんな僕らとみんなの8年間の【運命】に、この曲を捧げます!“それってデスティニー”!」最後にドカッと。
2番手は、アナログフィッシュ。観るのは…8年ぶり?前回のGO FOR THE SUN以来かもしれない。唯一の接点といえば、こないだ安部コウセイ初の個展『周辺』を観に行ったとき、フロントマンの下岡さんがごくごく普通に会場の隅に座っていたくらい。
で、大変恐縮なのだけど、アナログフィッシュ、正直言ってあんまり書くことがない。8年ぶりということにもあまり触れず、浮かれず淡々と演奏していて、3バンド中もっとも安定して年輪を重ねてきたであろう落ち着いた風格が漂っていた。少し悪く言えば、HINTOやこの後のフジファブリックと比較して、未だしたたかになれていない、したたかになるという選択肢自体をずいぶん前に放棄したような、「自分たちはずっとこのまま生きていくんだ」という、美しくもどこか危うい中堅バンドの矜持を感じた。
「2014年は15周年YEARなので、たくさんライブやります。今日はぼくらを初めて観る方も多いと思いますけど、是非あそびに来て下さい」よくよく見ると首から下がスティーブ・ジョブズみたいな格好の下岡さんが、あのやさしい声色でぽつぽつと告知していた。
3番手、トリは、フジファブリック。ついに観る日が来てしまいました。セッティングを見ているときからひどくドキドキした。志村正彦が鬼籍に入って丸4年。3人になってすぐの頃は新しい音源を聴くなどしていたのだけど、なんか、やはり、避けていた。金澤ダイスケのキーボードセットが登場して、ああやっぱりフジファブリックだわ…という安堵はありつつ、当たり前のように立っているマイクの本数の少なさに、これから一体何が起こるんだろう。どうなっているんだろう。どうなってしまうんだろう。今まさに開こうとしているパンドラの箱の前でたたずんでいる心境だった。
特にSE等なく、暗転後はすすっと無音で登場。ギター山内総一郎、ではなく『フロントマン山内総一郎』が、やけに陽気に両手を高々と振りながらセンターマイクにつく。ダイちゃんもなんか客席に手を振りながらふらふらとキーボードセットの中に入ってった。えっえっ、なんなんだこの「軽さ」は…チャラいぞ…???でも加藤さんだけは8年前とまるで変わらぬ加藤さんで少し安心。
サポートドラムにあのBOBOさん(54-71、くるり、雅-miyabi-などで叩いてきた経歴を持つ超絶ドラマー。FNS歌謡祭とかも出たことある)が登場して、軽くどよめきが起こる。これはやべえ。
そして一曲目は、なんと“夜明けのBEAT”!
えっえっえっ、マジかマジか、あっあっあっ、いきなり、そんな、まだ、心の準備が。
しかしイントロからして何をどう考えても完全に完璧にあのフジファブリックの演奏なので、戸惑いを上回る勢いで嬉しさが激しくこみ上げてくる。一見、遠目にはイケメン俳優かと見紛う風情を放つ「まさにバンドの前面で歌う人」そのものの姿に変貌していた総くんが当たり前のように爽やかに歌い始めて、また少し戸惑いが追い上げた。
でも間奏での総くんのギターソロ、いきなり頭の後ろにギターを回して背中を客席に向けて軽やかに弾きまくっていて、これがひどく懐かしい光景で、しかも初めて生で聴く夜明けのBEATはあまりのカッコよさで、ああ、マジで、感動するしかないでしょうこれは…ウオオオ…ッ…!
「なんだろう、このバンド、めちゃくちゃ最高だよ…すげえいい」
「あれっ、なんだけど、このバンドはフジファブリック…なの…?」
なんというか、未亡人が愛した夫にとてもよく似た男にうっかり抱かれてしまってそれがめちゃくちゃ気持ちよくてたまらないけれど背徳感もあるような、各種複雑な思いがぐちゃぐちゃに混ざりながら、でも目の前の演奏は本当に気持ちよくて、かっこ良くて、当然ながら人の気持ちなんか一切意に介さずどんどんライブは進んでいって、2曲目は知らない曲だったけど、3曲目に行く直前で加藤さんに静かにスポットライトが当たるから「あれっ、まさか…」と思ったら、そのまさかだ。
“ダンス2000“!!!!!!!!!!!!!
ウワーーーーーー紛れも無いダンス2000でーーーーーーもう本当にーーーーーー何年ぶりに聴いたのだろうーーーーーーーウワーーーーーー最高最高、最高だ……たまらん……でも総くんが(おそらくもう志村に似せようなんて意識もまったくなく)純粋にギターボーカル・山内総一郎として歌っている声が、それはそれはスカッと気持ちよくて、志村のあのヌケ感皆無のくぐもった音程取れてるのかよくわからないしシャウトも上手くないけどめちゃくちゃしっくり来た好きだった声のことを思い出して、最高だし、モヤモヤするし、好きだし、モヤモヤするし、嬉しいし、モヤモヤするし、楽しいし、モヤモヤするし、「キーボード、金澤ダイスケ!」と総くんの声から間奏に突入して、ダイちゃんが弾きまくってて、ああ、こりゃ紛れもないフジファブリック。
うーん、でも、フジファブリックじゃないんだよなあ…フジファブリックなんだけど、フジファブリックって今でも名乗っているけど、やっぱりこれはフジファブリックじゃない。フジファブリックだけどフジファブリックじゃない。そうとしか言いようがない。
「フジファブリックはいいバンド『だった』」と「フジファブリックはいいバンド『だ』」が、矛盾なく成立している事実がそこにはあった。
有難いことに(残念なことに)、今回僕が知っているフジファブリックの曲、この2曲だけだったのです。あとは全部、3人になってから作られた新しい曲たち。知らない曲が来るたび「よかった…昔のやつじゃない…」ってのと「でも昔のやつも聴きたい…どんな感じで総くん歌い上げるの…」って気持ちが同時に湧いてくる。
総くんがMCで「3バンドとも、この8年の間に色々ありました」と言って、あっ言及するのかな、と思いきやそのまま行ったので志村の存在もそんな簡単に「色々」の中に押し込んで処理できてしまうのか…?とか一瞬思ったりもしたんですが、僕はフジファブリックからだいぶ離れていたので、志村がいなくなった後もずっと追っていたなら、おそらくバンドが穴を埋めるべく乗り越えていった過程を一緒に味わうことができていたんだろうし、これって完全に自称古参老害ジジイによる周回遅れの戯言そのものなのだけど、でも本当に、いまの素晴らしい姿を見ることができて、それだけでもとても嬉しくて、よかった。
ただ、以前僕が「サブカル受け皿バンド」という概念の記事を書いたことがありますけど、いまのフジファブリックはもう完全にサブカル受け皿バンドではなくなりました。志村が亡くなったとき、そして再出発の新しい音源が出たとき、情でついてくる女性ファンも、音についてくる男性ファンも、かつて居た人たちは(僕もそうだけど)大部分がいなくなってしまったのではないかと思う。いまのフジファブリックファンの多くは、志村がいなくなったあと「なんかボーカルの人死んじゃったらしいけど、フジファブリックっていいよね~」みたいに入ってきた新興の人たちがとても多い印象を受けた。昔はいなかったような小奇麗なお姉さんが見たことのないフジファブリックTシャツを着て、キャー!総くーん!ダイちゃーん!加藤さーん!って、むしろ新しい曲たちで大いに盛り上がって楽しげに踊っている光景をたくさん見かけた。
だから今回のライブ自体フジファブリックファンが一番多かったようなのだけど、みんなそれほど若くはないものの前回のGO FOR THE SUNには来ていない人が多いっていう実態にも、とても納得がいった。そんなファン層の変化に伴って、総くんやダイちゃんのキャラクターも「軽く」なっていったのだろうな。バンドの生き残り方として、とてもたくましい。よくぞここまで立て直した。すごい。偉い。
尋常じゃない量の尊敬と感動を覚えると共に、それでもまだクソみたいなことを付け足すなら、今のフジファブリックは「志村が死んじゃったのにフジファブリックの名前を使い続けて全然違うバンドになってしまった悪夢のようなパラレルワールドのひとつ」でもあるのかな、とは思う。もしもどこか別のパラレルワールドでは志村が普通に生きていて、その世界のフジファブリックを愛する人たちにこの世界の現在のフジファブリックを見せられたら、たぶん「えっ、なにこれ、悪夢かよ」ってなる。いまのフジファブリックも良いには良いのだけど、そこらへんのよくあるそこそこイケるバンドのひとつでしかなく、もう僕が落ち着ける場所ではないんだよな…。そんなようなことを何度も思いました。
そして、いよいよお待ちかねのアンコール…!
ある意味、GO FOR THE SUNはここからが本番、と言っちゃってもいいのでは。8年前は3バンドのメンバーが勢揃いして“今夜はブギーバッグ”をやった。今回はなにをやるんだろう。セッティングがどんどん進む。ダイちゃんのキーボードセットは横に少しずらしただけでそのままに、HINTOとアナログフィッシュのドラムが2台横並びに置かれて、フジの加藤さんのベースと、HINTOの伊東さんのギターがスタンバイされる。マイクスタンドは全部で4本。あと誰が弾くのかわからないアコギが真ん中に置かれた。
まずは、不安すぎる「三銃士」が再び登場。3人とも今回のGO FOR THE SUN 2013グッズのTシャツに着替えていた。
「いやあ!本当に楽しかったですね!もうずっと(自分たちの出番以外は)観てましたよ!」光広が興奮気味にしゃべって、まあ、言うまでもなく噛みまくって、軽くワイワイやってから、ステージ袖に集まっている他のメンバーに向かい「みんな揃ってるー?準備はいい?それでは!」と、各々バンドメンバーを呼び込む。
まずは「HINTOです!」と光広が他の3人を呼ぶが…やはりここでも噛んでしまった。「ひんてぇれす」だった。健太郎さんの「アナログフィッシュ!」加藤さんの「フジファブリック!」と続く。真ん中のアコギは総くんが弾くようだ。加藤さんのベースはなぜか光広が握っている。その加藤さんは、キーボードの狭いスペースの中でダイちゃんとくっついてなんかコソコソと。
安部コウセイが「もっかいちゃんと自己紹介しようよ~!」と健太郎さんに振って、あらためて前説で失敗した「佐々木ケンシロウです!」のくだりをやる。笑いではなく、拍手と歓声。これだいぶきついやつですね。でも、この先に大団円しか待っていないことをみんなで共有できているこうしたワチャワチャした空気、めちゃくちゃ幸せ感ある。暑くなってすぐに革ジャンを脱ぐ健太郎さん。
「じゃあ、やりますか~」と誰かが促して、ふわっと曲が始まりかけたところで「知ってたらみんな歌ってね!」とコウセイが付け足して、つまりみんな知っているような曲なんですね…ははーん…このイントロは…おっ、知ってる…っていうか……えっ?えーっえっえっ??なんでこのメンバーで…これ!?!?!?
電気グルーヴの“Shangri-La”!!!!!!!!!!
やばい…めっちゃくっちゃ良い…安部コウセイ、下岡晃、佐々木健太郎、山内総一郎4人のボーカリストが小気味よく歌い分けていく。マジ、踊る、しかない。たまらねえ…うっとりする。貴重なステージの光景を刮目していたいのに、ついつい目を閉じて天を仰いでしまう。とろける。同期らしい同期も使ってなさそうなので普通の生演奏だけどすごいクオリティ高い。
最後にはバシッと決まって「いやあ、初めてちゃんとキマったね!」とコウセイがおどけながら「この選曲、サイコーじゃないっすか?」とフロアに問いかける。うん!うんうんうん!文句なし!良い!サイコー!しかもまだ他の曲もやる様子。勝手に「GO FOR THE SUNのアンコールは一曲」と思い込んでいたので、まだまだ終わらないのにびっくり。うれしい。
このタイミングで加藤さんと光広がポジションチェンジ。加藤さんが自分のベースを持ち、光広がダイちゃんのキーボードに収まる。光広とダイちゃんがまたコソコソなんかやっていたが、指摘されたダイちゃんいわく「世間話です」とのこと。(開演中のステージ上で世間話とは…???)
やがて2曲目…これまたアラフォー殺しな選曲…!
“雪の降る町” (UNICORN)!!!!!!!!!!!!
演奏の途中、健太郎さんが暑くて脱いでいた革ジャンを、コウセイがそっと近寄って拾い上げて勝手に着せ始めた。「雪の降る町だから、やっぱ着てたほうがいいかなー、と思ってさ」と演奏直後に。すぐさま「あっ、でももう脱いでいいよ」「いや、大丈夫(脱がない)」「そう?」結局最後までこのまま革ジャンを着ていた健太郎さん。
8年ぶりに開催したGO FOR THE SUN、ものすごく楽しかったし、今度は8年後と言わず、4年後とか2年後くらいにまたやりたいっすねー、みたいな話になったとき、またまた安部コウセイが「ねーねー!みんなで沖縄行きたくない!?でさ、たとえばツアーの最後を沖縄にして2~3日泊まるの!」「ウッワァーーーー!!それめちゃくちゃいいですね!!!!」総くんが身をよじらせながら吐き出す。それからしばらくみんなで(まあ主にコウセイが)沖縄沖縄言っていた。
で、GO FOR THE SUNの最後はやはり、これしかない。
“今夜はブギーバッグ“(小沢健二featuringスチャダラパー)
スチャダラのラップパートを安部コウセイと下岡晃が、オザケンの部分は佐々木健太郎と山内総一郎が、まるで8年前に見たときと同じように、また今でもYoutubeに転がってて再生され続けている伝説の動画と同様に、みんなで気持ちよく歌っていた。
曲も終わりかけて、メンバーひとりひとりを紹介していくくだり、最初に「ドラムス・菱谷昌弘!(HINTO)」と言われて、ヒシタニマサヒロって誰だっけ、って一瞬なってしまった…本名のほう呼ばれたんだ…たしかに合ってるけど…ビッツくん…。
続けてドラムス・斉藤州一郎!(アナログフィッシュ)、ギター・伊東真一!(HINTO)、ベース・加藤慎一!(フジファブリック)と呼ばれたあと、「ベー…あっキーボード・安部光広!」と、普段の楽器ではないのにソロプレイっぽい見せ場を作らなくちゃいけなくなり不慣れにピロピロ弾きまくる光広のパート。それほど盛り上がっていかないフレーズが続く中「あいつはもうちょっとやれるはずだ」と突き放す兄・コウセイ。やがて途中で諦める弟・光広。直後、キーボード・金澤ダイスケ!(フジファブリック)となった時には、当然ながら光広とは比べ物にならないエモーショナルな高速フレーズで魅了してくる(本職)。
ベースボーカル・佐々木健太郎!(アナログフィッシュ)安部コウセイ!(HINTO)下岡晃!(アナログフィッシュ)山内総一郎!(フジファブリック)とメンバーを一周して、それからほんのワンテンポ置いて、立派なフロントマンとなった山内総一郎の口から、
志村正彦!
と。
あっあっ、このタイミングで名前出すんだ…完全に泣いちゃうやつだよそれ…やばいよ…ってなりながら、反射的に両手をグーにして、力いっぱい掲げていた。そう、志村正彦は永遠ですよ。間違いなく。
なんだかよくわからないけれど、今後またもしフジファブリックを観る機会があるとしたら、それはGO FOR THE SUNの時だけが理想だな、それがいいよな、って思った。
AXに来るのもおそらくこれが最後になるんだろうな。数えきれないくらいお世話になりました。特に、過去に何回も書いてますが、フジファブリックのメジャー2ndアルバム『モノノケハカランダ』ツアーのファイナル、アンコールラストで聴いた“陽炎”が、いつまでも残っております。スパルタローカルズの解散ライブでも、2階席の最前ど真ん中にフジファブリックのメンバーが勢揃いしていたことがあった。あれが志村を見た最後でした。
といった具合にAXでの思い出は挙げていくと本当にキリがないのだけど(POLYSICSの10周年ライブでPの文字がトーストされたパン投げを味わったのもここだったなぁ…とか)とにかくその最後かもしれない日に、思い出の集大成にも近い至高のライブを味わえたことは、僕のライブ人生において極めてめでたい出来事であるように思えます。本当にありがとうございました。来られてよかった…!
で、志村がいなくなっても、AXがなくなっても、GO FOR THE SUNはこれからもどこかでたまに開催されていくだろうから、決して忘れることはないのです。
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