無職からの卒業旅行

めでたいめでたいと言われつつ、もちろん本人的にはまったくめでたくないのですが、就職が決まってしまいました。遠からず仕事が始まってしまうまで何かやり残したことあったかな…無職のうちに…何か…と考えていたところ、「せっかくだからどっか行ってきたら?“無職からの卒業旅行”に」と言われ、ウワーッ完全にこれだーッ!てなった。

翌朝、出発しました。いきなり行けるもんですね。

東海道新幹線、9年前に関西旅行した以来久しぶりに乗ったんですけど、ただ駅のホームで駅弁持って待ってるだけでめちゃくちゃ興奮したのは当然として、まず、システムがよくわからない。なるべく安く、と選んだ自由席の切符でのぞみにも乗れてしまうのがわかったのは、京都に着いてだいぶ経ってからのことでした。全部こだまで来ちゃった。3時間半。そのぶん新幹線を堪能できてよかったし、むしろもっと長くてもよかった。


京都に着いたものの、途方に暮れる。さて何しよう。どこ行こう。完全ノープランであります。途方に暮れつつ、まあ、やっぱり京都に来たらあそこだよな~って。まるで唯一の友達に家にでも行くような感覚で、9年前にも2度行ったことがある建仁寺に向かう。

9年前は丸坊主で旅をしていたので受付のお坊さんと「坊さんですか?」「えっ、ちがいます」というやり取りをしたものの、祇園の街を通り抜けてたどり着いた建仁寺、長い歳月を感じる変化がいくつかあった。人気スポットと化した境内は観光客で溢れ、受付はバイトっぽい可愛らしい女の子に、たまたまいらした舞妓さんの周りは記念撮影する人たちで賑わっていた。まるで好きなサブカルバンドが売れちまったみたいな寂しさがあった。

とはいえそこは、京都最古の禅寺・建仁寺。入ってさえしまえば、最高に安らかな空間。法堂の天井に描かれた双龍に「お久しぶりです」って挨拶してきた。


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建仁寺


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建仁寺


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双龍


それと、境内に安国寺恵瓊の首塚があって、えっこんなところにいらしたんですね…!って興奮したと同時に、鬼武者2でデフォルメされて出てくる人情味あふれるおっちゃん“エケイ“のことをちょっと思い出した。エケイは進物しまくって好感度上げておかないと最後のほうで倒すことになってしまうのがせつないのよな。鬼武者2のめちゃめちゃお金をかけたB級映画っぷり、当時は至極真面目に遊んでいたけど、あらためてプレイ動画とか見ると展開がクソ(褒め言葉)すぎてゲラッゲラ笑える。なんで京都にまで来て鬼武者2のことを考えているんでしょうね僕は。

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安国寺恵瓊の首塚


初日は建仁寺行ったのみで、あとは烏丸に宿を取って、近くを散策しつつ『英多朗』という店でゆずラーメンなるものを食べた。なんとなくご当地グルメ縛りを課していたものの、男一人旅では選択肢が狭まるうえ、どういうわけか英多朗は当初うどん屋を探していたら見つかったので、「ご当地グルメ=ラーメン屋巡り」に至るのはやむなし、みたいなところある。翌日の昼にも同じ烏丸の『麺屋虎杖 四条富小路上ル』でカレーつけ麺を食べた。どちらもすっげーうまかった!!


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ゆずラーメン


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カレーつけ麺


二日目。朝食摂るべく入ったマクドナルド、鈴木ちなみ風の長身お姉さんが京都のイントネーション全開で明るく接客していて、心臓のうぶ毛を優しく撫でられたような気分になった。そんなんずるいわ…耳が妊娠したかと思った。

阪急電車で嵐山。阪急嵐山線に乗り換えたら変わった並びのボックスシートで、天気もいいし、完全に気分がいい。さわやかな風を浴びながら渡月橋を経て天龍寺。庭園が美しいものの、これあと一ヶ月後に来てたら紅葉…!と思うと少し悔しい。天龍寺裏にある“例の竹林”(例のプール、と言えばわかる人ならパッと映像が浮かぶように、何かとよく出てくる天龍寺裏の竹林は“例の竹林”と称するのがベストな気がした)では、道に面した竹の表面をよくよく見ていくと汚らわしい相合傘がたくさん書いてあって、遠景の大切さを思う。竹林の先にある縁結びで有名な野宮神社では女二人旅みたいな人がたくさんいて、つい「なるほど」と思わずにはいられなかった。


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阪急嵐山線


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渡月橋


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天龍寺の庭園


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例の竹林


かつて旅行した時には貪るように取り込んでいた寺社成分はこのへんで大体もう満ちたかな、というのと、大阪方面からお誘いがあったので京都を後にして、阪急梅田へ。京都から大阪に行くと、女の子がなんかタイプじゃないな、と思うし、今回は行かなかったけど大阪から神戸に行くと、神戸の女の子は大阪と比べてすごくいいよな、って思う。どこがかわいいとかかわいくないとかじゃなくて、なんというか、雰囲気の話。

梅田周辺を歩いて回ると、東京では絶対これやらないよな、みたいな建造物がたくさんあって面白い。導線より見栄えなのかな。「大阪人は余白を嫌う」という言葉を聞いて、とてもしっくりいった。梅田では東京で言うところの歌舞伎町っぽいところに宿を取り、そのすぐ近くにあった看板も何も出ていない小さな焼き鳥屋に連れて行っていただいた。

この焼き鳥屋が、尋常じゃない。そもそもいい材料を仕入れているのだろうけど、とにかく焼き加減がすごい。ここしかない、っていう完璧なタイミングで火から上げたものしか出てこない。流鏑馬で必ず全射を的の真ん中に当てるような正確さ、圧倒的職人芸を堪能した。焼き鳥ひとつでここまで極められるのか…!まあ、うまいっすよ。めっちゃくっちゃうまい。人生最高の焼き鳥の座にもれなく君臨した。そのあとたこ焼きも食った。ねぎがどっさり乗ってて、たこもプリプリ。大阪居たら絶対太る。


三日目、雨。ホテルの朝食バイキングで年甲斐もなくはしゃいでしまい、胃袋という貴重なリソースを不用意に埋めてしまった。安宿でこれでは、そこそこ上等なホテルのバイキングだったら一体自分はどうなってしまうというのか…。とりあえず大人なんだからアホみたいにフライドポテト取りまくるのだけはやめなくちゃなって思う。

御堂筋線で心斎橋、アメ村らへん。名前はよく見るBIG CATってライブハウス、こんなところにあるのね。上階にあるBIG CATに向かう途中の、構造的に明らかにいらなそうなカーブを描いているエスカレーターに大阪を感じた。ミーハーなのでタイガーコペンハーゲンとかも入った。関西方面はアーケードや地下街が本当に多くて、雨でもそこまで不便じゃないのがとにかくよい。

この日は昼から飲む腹積もりでいたのと、あと串カツとお好み焼き食べたいなーとは思ってて。そしたらその欲求をすべて同時に満たしてくれるナイスな店があったため行くことに。駅の構内に立ち飲み屋がゴロゴロあるほどの大阪でもさすがに平日の昼間から延々飲む人はいないらしく(そりゃそうだ)、長時間落ち着いて飲めてとてもよかった。しかも安い。大阪に住んでて痩せることができる人は本当にすごいな。食欲の制御難度が東京よりはるかに高い。飲み終えてからはぶらぶら散歩。戎橋を経て、なんばのほうまで。


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かに道楽


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グリコが消えている…!


んで、食べるものも食べたし、こっちは数日間天気悪そうだし(台風来てるし)、当初イメージした日程的・予算的にもここらへんが潮時か~、と思ったのでサッと帰る。なんばに居た1時間半後の新幹線にはもう乗っていた。自由席ですが、ちゃんとのぞみに乗りました。でものぞみがあまりにも速すぎて、新幹線の中でやろうと思ってたことが全然できなかった。駅弁食ってボーッとしてたら着いた。少し物足りない。

無職からの卒業旅行の帰路、ということで、いやあこれものすごい帰りツラいだろうなー帰りたくなくなるだろうなー死にたくなるかなーと他人事みたいに思っていたものの、一切そんなことはなく、驚くほどにケロッとしていた。無職からの卒業旅行と銘打ってはいたけど、まだ正式に先方にお返事しておらず今ならまだ蹴っ飛ばすこともできたし、条件的にもそこまで上々とは言えないので、まだ決めかねていた。いま考えると、卒業旅行っていうか、遠くまで悩みに行っていた。

で、一定の答えが出たので、ふんぎりついたので、じゃあ帰って働きます。しょうがないよね。みたいなところある。


なんかさ、行きの新幹線で、一応技術職志してるところもあって、このめちゃくちゃ速い新幹線が成り立ってることを色々想像してったら、うっわとんでもねえな~日本人マジ頭沸いてる~って思ったのですよ。先人の労働に対して畏敬の念というか、「アホか」と思って。まあ、夢とモチベーションが一体になるとやれるんでしょうけどね。自分には夢もモチベーションも無いけど、何かの拍子にそういうのが手に入ったら、いいよね。そういう種類の面白さってまだ知らないし、ご縁あったらいつかは自分も、って漠然と思った。

本当に納得いく答えが出るのは少なくとも果てしなく先になるものの、そういう問いを持ち続ける状態には“なじんだ”ので、まあ、いいかな、やろうかな、って決めた部分がある。だから精神的な意味でも、無職からの卒業旅行としてけっこう機能してくれたってわけですね。行ってよかった。楽しかった。

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